Sustainability Research 004

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確かに、クルマをはじめ家電などもブラックボックスになってきています。一方で、操作するときのインターフェイスは「人にやさしく」を求められています。とにかくボタンを押せば動く。そのボタンは見た目にわかりやすく、押しやすくなっていますが、ちょっとした故障や事故には、どうしていいかわからずに機械の前で戸惑ってしまう、ということも多いですね。

操作のしやすさやわかりやすさも、ひとつの重要なポイントですが、インターフェイスの重要な点は、今、機械がどういう状況なのかを的確に使っている人に伝えることです。デジタル化が進んでいる現在は、特にです。
たとえば記録媒体のSDカード。これだけ見ても何が入っているかわかりません。かつて銀塩のフィルムの時代は、少なくとも光に透かしてみるとおぼろげながらでも何が写っているかわかった。カードは何が入っていて、もしトラブルがあったら何がトラブルなのか、どこが悪いのかわかりません。
そこで、それを的確に伝えるのがインターフェイスになってきます。インターフェイスは人と機械の接する面です。でも、機械の状況をきちっと伝えることができていないのに、使いやすさだけを語るのはあまり意味がないでしょう。
電気自動車が登場していますが、ものすごく静かですね。あまり静か過ぎるとタコメーターを見ないとエンジンがかかっているかどうかもわからなくなってしまう。ですから、エンジンの音をドライバーに伝えなくてはいけない。それも必要なことですね。電気自動車はモーターで動いていますから、動き出すときも動いているときも音がしません。私も乗ったことがありますが、たとえば100kmで走っているのに風を切る音しかしないんですよ。ヨットと一緒です。
道路上ではどうなるか。高速で近づいてくるクルマを、歩いている人は認識できません。ものすごく危険ですね。私たちの感覚には、クルマは大きな音がするものだと刷り込まれています。今のクルマは、ある程度、エンジン音を敢えて消さず出すようにしています。
人間が的確に情報をつかむために必要なことを、どのようにオンタイムで伝えていくのか、それがインターフェイスでは非常に重要な役割だと思います。そこに、音を使ったり、あるいはビジュアル、触覚を使うなど、さまざま駆使しながら伝えていく。

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クルマのインターフェイスには難しい点もありますね。スピードメーターがアナログの回転式の表示なら、100kmと数字が正確にわからなくても、針の角度でどれくらいスピードが出ているのかひと目でわかります。もしそれがデジタルの数字で表示されると、人間は、数字を一度、頭に置き換えて計算しなくてはならないんです。クルマでなく時計としましょう。
3時までにあと何分あるか、デジタル数字の表示だと頭で計算しなければならないけれど、針式だと感覚的にすぐにわかります。どちらがいいのか。かつて、皆、メーターはデジタル数字の表示になりましたけど、今、丸い針式の表示に戻っているでしょう。インターフェイスはどうあるべきか、いろいろな経験を経て収斂されてきた。感覚的に即座に伝わるには、あの表示がいいと、我々は気がついてきたんです。

そうしたことはたくさんあります。日本の家屋は座敷と廊下の間に段差があって、そこに1〜2cmの敷居があります。ところが今はバリアフリーにしましょうと、家中全部、真っ平らにしています。確かに日本の家は、20年ほど前から平らになっています。そこで何が起こっているかというと、真っ平らな床の家で育った子供たちがちょっとした小石にもつまずいて転ぶ、そういう子が増えてきているんです。
つまり、無造作に敷居をまたぐ、足をあげて一歩を踏み出すということがおろそかになってきていて、すり足に近い状態で移動することがあたり前になっている子供が増えてきている。それですぐに転んでしまうんです。これはある医師が、転びやすい子供を診ていて、その背景を調べたところ、家の中が真っ平らな状態だったということに行き着いたそうです。
我々は廊下から座敷に入るときあたり前のように足をあげます。無意識のうちにも乗り越えるときは足をあげるという行動が刷り込まれているのです。こうした事例は、実は身の回りにたくさんあるのではないでしょうか。