ASEANで、いよいよ始まった二輪車の交通事故対策プロモーション。GRRSO, APRSOがマニラで開催された。
Decade of Action for Road Safety の2030年目標達成に向けてASEANの二輪車向け交通事故対策が最重点事項!
(13/10/2022 Shigeki Ishikawa)
2022年10月11~13日フィリピンのマニラにあるADBにおいて、GRRSO (The Global Regional Road Safety Observatories)二輪車の安全に関する会議(11~12日) 及びAPRSO (Asia-Pacific Road Safety Observatory)の年次総会(13日)が開催された。
【会議開催の背景】
世界では毎年約130万人の死者と推定5,000万人の負傷者の交通事故が起きている。
国連は2030年までに交通事故による死亡者数と重傷者数を50%削減するという目標を達成するためのDecade of Action for Road Safetyを世界に求めている。
交通事故による死亡者や負傷者は、低中所得国に住む人々の割合が多く、それらの国は世界の自動車の半分しか所有していないが、世界の交通事故死傷者の90%を占めていると推定される。そして世界の交通事故死の50%以上が脆弱な道路利用者 (歩行者、自転車、二輪車など) によって発生し、二輪車と三輪車による死者数は全体の28%を占めている。
多くの低中所得国では、二輪車が主要な移動手段で、世界の二輪車登録の 88% はそれらの国が占め、低中所得国での二輪車が関係する交通事故による死亡者および重傷者は全体の70%を超える国もある。
ゆえに、低中所得国における二輪車による交通事故が大きく減少しない限り、2030 年の国連の目標である交通事故による死亡者数と重傷者数を50%削減することは達成できない。
そこで、APRSOは、二輪車の安全性リスクのすべてが解決策として証明されているわけではないが、有効である方法を実装することで二輪車の事故を大きく軽減できると考えており、実務家や専門家を集めた検討会議を主導・開催している。
今回のマニラでの会議は、実務家・専門家によるプレゼンテーションとその実務家・専門家たちと直接議論ができるDialogue (小グループでのワークショップ)で構成され、同時にABSのデモンストレーションも開催された。
【会議の参加者】(主にフィリピンを中心としたASEAN地域)
- 交通安全における政府および非政府のリーダー
- 二輪車の安全に取り組んでいる非政府組織 (NGO)
- 政府交通安全機関の主要意思決定者
- 多国間開発銀行の運輸および関連部門のスタッフ
- 道路交通システムのインフラ管理者
- 二輪車およびライダー用保護具の製造業者および小売業者
- 交通事故保険
- 二輪車の登録とライダーのライセンス機関およびサービス プロバイダー
- 交通事故の医療および緊急対応のプランナーおよびマネージャー
- 都市交通のスペシャリスト
- 二輪車の多面的安全性に関わるコンサルタントおよび研究者
など
【会議の運営主体とAPRSOについて】
APRSOは交通安全のデータ、政策、実践に関する地域フォーラムで、堅牢な交通安全データを生成することにより、アジア太平洋地域の道路における人命の保護を強化することが使命である。
APRSO は、世界銀行 (WB)、国際自動車連盟 (FIA)、アジア開発銀行 (ADB)、国際交通フォーラム (ITF)、国際連合経済社会グループによって設立され、アジア太平洋委員会 (UNESCAP)、世界保健機関 (WHO)の支援を受け、世界交通安全財団」(GRSF) を通じて援助を受けている。
なお、ADB は APRSO の事務局を務めている。
そしてこの会議におけるAPRSO パートナーとしては、イベロアメリカ交通安全監査機構 (OISEVI)、世界保健機関 (WHO)、アジア開発銀行 (ADB)、世界銀行グローバル交通安全ファシリティ (GRSF)、グローバル交通安全パートナーシップ (GRSP)、国際道路評価プログラム (iRAP)、交通安全立法者のグローバルネットワーク、国際自動車連盟 (FIAF)、Towards Zero Foundation、国連アジア太平洋経済社会委員会 ( UNESCAP)がある。
イベントのテクニカル パートナーとして、マレーシア交通安全研究所 (MIROS) が参加した。
スケジュールなど
11日
- Opening Session PTW Safety
Session Speakers- Blaise Murphet, GRSP
- Nikorn Chamnong, MP, Thailand
- Nhan Tran, World Health Organization
- Maolin Macatangay, YOURS
- Ray Adrian Macalalag, YOURS
- Dave Shelton, ADB
- Dialogue 1: Moving to Sustainable Practice Powered Two-and Three-Wheelers (PTWs) and the Safe System
Session Speakers- Blaise Murphet, GRSP
- Dave Shelton, ADB
- Dave Cliff, GRSP
- Jess Truong, TZF
- Marisela Ponce De Leon Valdes, World Bank GRSF
- Session 2: Adopting Safe Vehicles
Session Speakers- Blaise Murphet, GRSP
- Michael Woodford, Safer Roads Foundation
- Jessica Truong, Towards Zero Foundation
- Nikorn Chamnong, MP, Thailand
- Azhar Hamzah, MIROS
- Dialogue 2: Regulating for Powered Two-and Three-Wheeler (PTW) Safety
Session Speakers- Blaise Murphet, GRSP
- Ishtiaque Ahmed, UNESCAP
- Jessica Truong, Towards Zero Foundation
- Johan Strandroth, Strandroth Inc
- Michael Woodford, Safer Roads Foundation
12日
- Session 3: Redesigning infrastructure for Powered Two-and Three-Wheelers (PTWs')
Session Speakers- Blaise Murphet, GRSP
- Greg Smith, iRAP
- Johan Strandroth, Strandroth Inc
- Shane Turner, Abley
- Eduardo Pompeo, GDCI
- Marisela Ponce De Leon Valdes, World Bank GRSF
- Dialogue 3: Powered Two-and Three-Wheeler(PTW) Friendly Road System
Session Speakers- Blaise Murphet, GRSP
- Greg Smith, iRAP
- Johan Strandroth, Strandroth Inc
- Shane Turner, Abley
- Eduardo Pompeo, GDCI
- Marisela Ponce De Leon Valdes, World Bank GRSF
- Session 4: Safer Powered Two-and Three-Wheelers(PTW) Users
Session Speakers- Dave Cliff, GRSP
- Agnieszka Krasnolucka, FIA Foundation
- Jimmy Tang, AIP Foundation
- Sam Clark, Transaid
- Gonzalo Peon Carballo, ITDP Mexico
- MIROS helmet safety ratings launch
Session Speakers- Azhar Hamzah, MIROS
- Mohamad Firdaus Izhar, MIROS
- Dialogue 4: Enabling Action on PTW Safety
Session Speakers- Blaise Murphet, GRSP
- Dave Shelton, ADB
- Agnieszka Krasnolucka, FIA Foundation
- Dave Cliff, GRSP
- Evelyn Murphy, WHO
- Jimmy Tang, AIP Foundation
- Maolin Macatangay, YOURS
- Ray Adrian Macalalag, YOURS
- Closing Session: Statement on PTW Safety Priorities
Session Speakers- Jamie Leather, ADB
- Ahmed Zuhair, State Minister, Maldives
- Veronique Feypell, ITF
13日
- UNESCAP Decade of Action Regional Plan
Mr Ishtiaque Ahmed (Economic Affairs Officer, UNESCAP)
Use of data in developing - Thailand's 5th Master Plan
Dr. Sirirat Suwanrit (THA)(Head, Division of Injury Prevention, Department of Disease Control, Ministry of Public Health) - Applying crash data to chain-of-events analysis
Mr Johan Strandroth (Strandroth Inc - Sweden) - Data for monitoring progress of the Global Plan
Mr Nhan Tran (Unit Head, Safety and Mobility, Department of the Social Determinants of Health, WHO) - Innovative use of data in Armenia to inform road safety actions
Mr Poghos Shahinyan (ARM) (Executive Director National Road Safety Council of Armenia) - Infrastructure risk mapping to support program planning
Mr Shane Turner (NZ) (Technical Director, Road Safely, Abley) - Crash data analysis in Sri Lanka
Dr. H.R. Pasindu (University of Moratuwa National Council for Road Safety Sri Lanka Director, Engineering Research Unit, University of Moratuwa) - India’s use of data to inform road safety action
Dr . Kamal Soi (Member Indian National Road Safety Council) - Summary of 2022 Annual Report
Charles Melhuish (Consultant, ADB)
2日間開催されたGRRSOにおいてADB、GRSP、WHO、TZF、GRSF、iRAP、FIA Foundation、AIP Foundation、ITF、MIROSなどの実務家・専門家達から、ASEAN地域での二輪車の事故を大きく軽減できると思われる、交通安全のデータ、政策、実践に関してプレゼンテーションが行われた。
それらの内容は、道路インフラ、教育、ルール、政治の執行とコンプライアンス、コラボレーションとパートナーシップ、都市部のスピード制限、ヘルメット装着、ABS装着などの様々なプレゼンテーションと、各テーマに関するDialogue(小グループによるワークショップ)が行われた。
このDialogueはプレゼンテーター達がワークショップのファシリテーターを務め、議論に参加した多くの人はフィリピンを中心にASEAN地域からの参加者で構成された。
11日の様々な提案や議論の中で、特に二輪車にABSを装着することが如何に安全に有効かと言う内容が目立った。
ちょっと違和感を感じたのは、MIROSが製作したABSに関する動画が上映され、その内容はABSとCBSの両者のデモ動画を比較して、ABSの優位性を強調する形になっていた。(この動画はその後、バリでのASEAN各国の交通大臣へのABSデモンストレーションの最中も上映されていた。)
そもそも今回の会議は、東南アジア向けモーターサイクルパートナーシップ(Motorcycle ABS Partnership (MAP) for South-East Asia)の動きの一環でもあるわけで、このような動画がプレゼンテーションで放映されたのだと推測される。
12日は道路インフラ、政治の執行とコンプライアンス、コラボレーションとパートナーップや都市部のスピード制限、そして多く時間を割いたのはヘルメット装着について話し合われた。
このヘルメット装着についてもMIROSからのプレゼンテーションがあった。
MIROS はSHAPes という安全ヘルメット評価プログラムを既に開始しており、これをASEAN地域に広げようと考えているようだ。
13日は実務家・専門家や各国からのプレゼンテーションが行われた。
ここではスウェーデンのビジョン・ゼロが紹介され、それを参考に道路インフラ、教育、ルール、政治の執行とコンプライアンス、コラボレーションとパートナーシップなど道路安全政策を考える必要がある、という会議全体の流れになった。
しかしASEAN地域の国々の多くは、人口が多く、経済発展途上にあり、未整備のインフラが多く、教育環境がまだまだ整備途上にある、など様々な問題を抱えている。
実務家・専門家達は事故死者数の軽減は経済に大きく貢献する。だから資金・人員・知恵を動員しても行う価値は十分にあると言うが、果たしてヨーロッパモデルがASEAN地域で有効なのだろうか?
もしかしたら、日本の高度経済成長時の交通戦争と言われた時の日本の交通事故対策モデルの方に有効性があるかもしれない。
ABSのデモンストレーションは、グループ分けをして複数回MIROSによって開催された。
このイベントを通して、我々は2の課題を与えられた。
一つ目は、二輪ABSの有効性の正しい認識を共有する必要性
二つ目は、ASEAN地域での有効性ある道路安全対策とはどのようなものなのか
今後これらの課題に取組む必要性を強く感じた。